授業プラン「重さを量ろう」の実践記録

授業者:箕野 越好

重さの授業は、2006年度の3学期に行ないました。3年生21名の学級でした。以下に紹介する文章は、学級通信『みんな太陽』に掲載した「算数─重さの学習の風景」をそのまま転載したものです。学級通信の性質上、学術的な研究レポートではなく、保護者を意識して書かれています。

ところで、授業プラン「重さを量ろう」は、この授業の後に、実践のまとめとして作成したものです。以下の実践が、授業プラン通りになっていないのは、そのような事情によるものです。

算数─重さの学習の風景

算数では、重さ(「重さのはかり方と表し方」)の学習をしています。

学習を始めるに当たって、重さがないものがあるかどうか尋ねてみました。

〈子どもが考えた「重さがないもの」〉

雲、空気、影、卵の殻、光、お米一粒、紙、糸、 毛糸、

草の葉、鉛筆の芯の折れたやつ、シャーペンの芯

もっと時間を取れば、他にもたくさん出てきそうでしたが、ここまでで打ち切りました。ただ、その過程で、重さはあるよ、という反対の意見も出ました。「卵の殻」と「お米の一粒」には5人の子が、「紙」と「毛糸」と「草の葉」と「鉛筆の芯の折れたやつ」と「シャーペンの芯」には3人の子が重さがあると発言しました。

そのような意見の出し合いの後で、重さがあるかどうかの最終的な意見を求めました。その結果は次のようです。

〈重さがないと思う子の数(括弧内)〉

影(21人全員)、空気(20人)、光(20人)、雲(16人)、

糸(5人)、紙(3人)、鉛筆の芯の折れたやつ(2人)、

お米の一粒・毛糸・草の葉・シャーペンの芯(1人)

なるほど、影は確かに重さはありません。でも、空気には重さがあります。空気に重さがあることは、簡単な実験で証明できますが、それはどちらかというと理科の学習になります。また、空気に重さがあることを科学的に説明するには、空気もまた粒(原子)からできているということがわからなくてはなりません。ですから、ここでは深入りはしませんでしたし、私の方から、「空気にも重さがある」というようなことは言いませんでした。

正解が難しいのは、「光」です。「光」も宇宙に「実存」していますが、「重さは?」と言われるとどう答えたらよいのでしょうか。はたして、光子にも質量はあるのでしょうか。私にはよく分かりません。

重さの保存性

さて、重さには保存性があります。「重さの保存性」とは、「一定量の物の重さは、その物の形を変えても、分割しても、へったりふえたりしない」ということです。大人にとっては、極く当たり前のように思えるのですが、はたして9歳頃の子どもたちは、このことをどのように考えているのでしょうか。

【実験1】

上皿天秤を用意し、一方の皿には大きめのナット(何でもよいのですが、ここでは「ねじの「ビス・ナット」のナット)を載せ、他方には油粘土を丸めて載せて、ちょうどつり合うようにしました。それから、その丸めていた粘土を上皿天秤の皿から取り出して、平たく押し広げました。

「こんな風に粘土をぺちゃんこにします。できるだけ薄くね。……あっ!、かるー、(いかにも軽そうに持ってみせる)紙みたいに軽くなった!─かな? ……そこで問題です。もう一度、この薄くなった粘土を天秤のお皿に戻します。つりあいはどうなると思いますか?」

軽くなる
同じ

重くなる

1班
3
2
0
2班
5
0
0
3班
4
0
2
4班
4
0
0
合計
16
2
2
この答えの選択肢は明快で、「軽くなる」・「同じ」・「重くなる」の3通りです。

初めに、個々人の予想を班ごとに集約させると、左の表のようになりました(欠席者1名、計20名)。

この後、なぜそのように思ったのか尋ねてみました。すると、「乾いて軽くなる」と言う意見、「薄くするから空気が抜けて軽くなる」と言う意見、「薄くなったので紙と同じことで軽くなる」と言う意見がありました。それぞれの意見に対して、私からは、「油粘土は乾くのかな」、「空気が抜けたら軽くなるというけど、空気って元々重さはなかったんじゃない」、「紙のようになると軽くなるというけど、それって、紙にも重さがあるということなのかな」とコメントしました。

それから、最終的な予想として「ファイナルアンサー」を求めたところ、2班の2人が「軽くなる」から「同じ」に変更しました。この後、実験をして答えを確かめました。

【実験2】

「重さの保存性」を確かめる2つ目の実験として、紙を使いました。初めに、何も載せない状態で、上皿天秤がつり合っていることを確かめます。同じ大きさの小さめの紙を2枚用意して、「種も仕掛けもありません」といいながら、片方の上皿天秤に1枚紙を半分に折って載せます。すると、天秤が傾きますから、「あれっ!、紙にも重さがあるんだ」と驚いてみせます。次に、もう1枚の紙も半分に折って、別の上皿に載せます。こうして、左右に紙を載せた上皿天秤が、再びつり合うことを確かめます。

軽くなる
同じ

重くなる

1班
0
4
1
2班
0
6
0
3班
0
4
0
4班
0
4
1
合計
0
18
2
それから、片方の紙を取り上げて、いきなり右手でつぶして丸めます。

「ありゃ!、丸く硬くなっちゃった。……そこで問題です。この紙の塊をもう一度、天秤のお皿に戻すと、つり合いはどうなると思いますか?」

さすがに、今度はだまされないぞ、という気概で班学習に入りました。その結果は、左の表のようになりました。

わけを言わせてみると、先ほどの粘土の形を変えた実験のことと関連付けて、説明する子もいました。今度は、ほぼ全員が正解に至っているのですから、感心しましたが、授業としてはちっともおもしろくありません。そこで、二つ折りの紙を左手に、丸めた紙を右手に持って、両手を頭の上まで持ちあげました。

「みんなは、これでも同じ重さというのですか。これをよく見て下さい! どちらが早く落ちるか。ではやってみます。」

軽くなる
同じ

重くなる

1班
0
2
3
2班
0
4
2
3班
0
3
1
4班
0
4
1
合計
0
13
7
と言って、両手の紙を放しました。明らかに丸めた紙の方が一直線に早く落ちました。

その落下の様子を見た子どもたちの中の何人かが、我先にと、答えを変えたいと指名を求めてきました。予想を変えたのは、男の子ばかり5人の子どもでした。(左の表)

その子らに私は同調して、「そりゃ、重たいから早く落ちるんだよな。この実験の結果から、丸くすると重たくなるということがわかるよ。」と後押しをしておきました。

それから、天秤の前に座って、左の皿に二つ折りの紙を置いて、

「……それで、もしもつり合ったりしたら、科学の歴史が変わるかも知れない。万が一、そんなことになったら、先生は論文を書かなくちゃならなくなって、学校をお休みしなくてはならないことになるから、その時はみんなよろしくね。」

と言いながら、手をガタガタと震わせて、丸めた紙を右の皿に落とすようなしぐさをして、わざと横に落としました……。まあ、そんなことをして子どもたちをじらしながら、右の皿に丸めた紙を載せたのですが……、結果はつり合ってしまいました。

子どもたちは大喜びしました、私と7人の男の子たち以外は。

【実験3】

「重さの保存性」を確かめる3つ目の実験は、「分割」しても重さは変わらないことを実証するために行いました。

実験1の最初の状態にします(ナットと丸めた油粘土を上皿天秤でつり合わせる)。次に油粘土を取り上げて、いくつもの小さい塊に分割します。

「今日最後の問題です。これはむずかしい。今、たくさんの小さい塊にしましたが、これらをもう一度、天秤のお皿に戻すと、つり合いはどうなると思いますか?」

この問題では、ただ1人だけが、「ちぎったのだから軽くなる」と予想しましたが、他の子どもたちはすんなり「同じ」になると予想を立てました。この問題に至って、ほぼ全ての子が、重さの保存性を理解できるようになったようです。

ほとんどの人ががっかり

今日、算数の勉強で実験をしました。はじめは、あぶらねん土とナットではどちらが重いでしょう、でした。ねん土の方は、平べったくしたので、みんな丸い時より軽いやろうと思って言ったら、前のといっしょでした。ほとんどの人ががっかりしました。

でも、2回目があって、同じ紙を一つはぐちゃぐちゃにして、もう一つの紙はそのまま半分におりました。そして、どちらが重いかわけを言った人だけ、答えがあっていた人だけシールがもらえるのでした。わたしは、あっていたし、きちんと発表をしたので、はじめてシールをもらいました。はじめてなので、とってもうれしかったです。3回目もやらって、答えはあっていたけれど、発表ができなかったので、シールがもらえませんでした。今度のきかいもがんばってもらいたいです。(1月16日)

りくつがわかってきた

今日、算数で3回どっちが重いかやりました。わたしは1回目当たらなかったけど、りくつがわかってきたので、2回目はすぐわかりました。それで、2回目にわけを発表したので、しょうシールをもらいました。3回目はわけが言えなかったので、もらえませんでした。1回目は当たらなかったけど、後の2回当たってとっても楽しかったです。しょうのシールがもらえて、とてもうれしかったです。また、やってほしいです。班たいこう重さくらべもしたいです。(1月16日)

重さの加法性

「重さの加法性」とは、「2つ以上の物を合併した時、その物の重さは、もとの重さの和になる」ということです。このことは、比較的子どもたちも理解しています。

しかし、その理解の程度は、まだまだ定着しているとはいえません。例えば、次のような場合に子どもたちはどう考えるのでしょうか。

保健室からデジタルの体重計を借りてきて、小数点以下をガムテープで隠します。職員室からは、冷蔵庫に入っていた900㎖入りのポカリスエットをもらってきます。初めは、3人の子に1人ずつ体重計に乗ってもらい、しゃがんだり、片足で立ったり、すうっと力を抜いたり、逆に力を入れたりして、体重が変化するかどうかを確かめます。それらをクイズ形式で楽しみながら実証していくのですが、格好や気持ちでは体重は変わらないことを確かめます。

次に、ポカリスエットを取り出して、「飲みたい人を2人募集します」と言います。このことは、勉強ではないのですが、大変盛り上がります。たくさんの子が飲みたいといって出てきました。ジャンケンで女の子1人と男の子1人が、授業中にただで飲める幸運にありつきました。

さて、それからですが、2人に同時に体重計に乗ってもらいます。合わせてakgあることを確認します(この時、小数点以下を隠しているガムテープを少しめくって、小数第1位の数字が5前後になるよう服で調整しておきます)。次に、ポカリスエットの重さも体重計で測ります。1kgを表示しました。

それから、次のように話しました。

「2人の体重は合わせてakgでした。ポカリスエットの重さは1kgでした。これから、2人にポカリスエットを全部飲んでもらいます。2人にしたのは、1人では900㎖全部を飲むのは大変だからです。2人に飲んでもらった後、再び、体重計に乗ってもらいます。2人合わせた体重はどうなるでしょうか。

ア 体重は1kgふえる

イ 変わらない

ウ 体重は1kg軽くなる」

1kgふえる

変わらない

1kg軽くなる

1班
4
1
0
2班
5
0
0
3班
6
0
0
4班
2
3
0
合計
17
4
0
こんな風に、今まで目の前にあった物を飲むという行為を通して、目の前からなくしてしまうのです。当然お腹の中に入ったわけですが、重さも消えてしまうのでしょうか。

最初に、一人一人の予想を班ごとに集約させると左の表のようになりました。さすがに軽くなるという予想はないのですが、体に取り込まれるので体重は増えないという意見がありました。話し合っていくうちに、「変わらない」という意見が増え、「1kgふえる」が10人、「変わらない」が11人になりました。

実際にやってみると、ちょうどakgに1kgを足した数値になりました。実験は大成功でした。

1円玉の重さ

重さの学習は、まずキログラムを学習し、それからグラムに移っていきました(教科書では逆になっています)。キログラムを先に取り上げたのは、それが質量の基本単位であるからという理由だけではなく、既に学習を終えている水のかさ1ℓの重さでもあるからです。実際、上皿自動秤を用意し、1リットル升に水を入れていくと、ちょうどいっぱいになった時に針が1kgを指しました。このようにして、1kgという重さを既習学習のリットルと結びつけ、1kgの古典的な定義(現在の定義とは異なる)をしたわけです。

1kgの量感を覚えさせることも大切です。体重を量る際に使ったポカリスエットの入れ物に水を入れて1kgのサンプルにしました。それから、班毎に身の回りの物を集めるなりして、できるだけ1kgに近い重さになるように競わせました。

さて、グラム学習のことに話を移します。よく知られているように、1円玉の重さは、ちょうど1gです。このことを上皿天秤で確かめます。次に、10gの分銅と10枚の1円玉がつり合うことを確かめます。更に、50枚の1円玉の重さが、ちょうど50gになることも確かめます。

次は、1kgまで量れる上皿自動秤を用意し、先ほどの1円玉50枚を載せます。針が動いて、50の目盛りで止まります。

「そこで問題です。1kgになるには1円玉が何枚いるのでしょう。班学習開始!」

班学習の結果は、どの班も「1円玉が1000枚」との予想でした。そこで、確かめてみようというわけで、今度は2kgまで量れる上皿自動秤を用意し、それに1リットル升を載せて、目盛りを0に合わせました(1kg計では0修正ができなかったため)。そして、あらかじめ千円を1円玉に両替しておいて、できるだけ目に付かないように隠していた残りの19束を取り出して、一束ずつ包みを破ってリットル升に入れていきました。ところが、実験の途中で授業終わりのチャイムが鳴ってしまったので、実験の続きは、またにしようと思ったのですが……。

やさしい箕野先生

今日、5時間目に算数をしました。さいしょに、どんな問題をしたかわすれたけど、その後に、1kgは1円玉で何まいか、という問題をしました。そして、全班が「千だ!!」と言いました。それから実さいにやってみました。「箕野先生は大金持ちやなー」と思いました。1円玉のです。よそうは当たっていました。しょうシールを全員もらって、みんな喜びました。箕野先生は、この作文に算数のことを書く、というのをじょうけんに、チャイムが鳴ってもしてくれました。はじめは算数は大っきらいだったけど、箕野先生のおかげで、大好きになれました。おもしろい勉強の仕方でした。箕野先生は、わたしたちがおもしろいようにしてくれて、すっごくやさしい先生でした。4年も箕野先生だといいな♡(1月23日)

おもしろかった算数

5時間目の終わりに箕野先生が、「あーつかれた。もうおしまいにしよう。」と言いました。けど、みんなが「いややー」と言って、箕野先生が、「心のスケッチに書いてくれますか。」と言いました。みんなは、「うんー」と言いました。それでじゅ業をつづけてくれました。1円玉が900まいの時にぜったいに1000まいだと思っていたら、本当に当たりました。とーてもうれしかったです。みんなでシールをもらいました。おもしろかったです。(1月23日)

やさしい箕野先生

今日、算数の勉強で、1円玉で実けんをしました。はじめに50まいとかやって、箕野先生が「1kgは1円玉で(  )まい」という問題をださありました。ぼくらが問題に答えたら、全部の班が「1000まい」と答えました。それから、箕野先生は、1円玉を使って、実けんをしやありました。チャイムが鳴った時、お金はちょうど200gでした。それから、箕野先生ががまんをしてお金を千まい全部入れてくれました。ありがとう。(1月23日)

1円玉をおくやくが当たった

びっくりしました。ストップウォッチをとめた時の秒で、1円玉をおくやくを決めました。ぼくは、3番目に当たりました。○○君も当たったけど、もんくを言ったから、やめさせられました。それでかなほちゃんがしました。帰りの会の時間も算数をやってくれてありがとう。おこる時はおこって、やさしい時はやさしくて、ぼくらは、もうすぐしたら学年がかわるけど、あとちょっとだけど、よろしくおねがいします。算数がもっと好きになりました。もっともっと算数してください。(1月23日)

先生はとってもやさしい

先生は、今日の5時間目の算数の時、すごくやさしかったです。先生は、おねがいすると何でもやってくれます。とくに勉強となれば、めちゃめちゃやさしくなります。勉強のことでしつ問すると、うれしそうに答えています。勉強がわからなかったら、箕野先生に聞きます。(1月23日)

先生ファイト

今日5時間目算数をしました。算数は、すごく楽しくなりました。先生はすごくがんばりやです。すごかったと思いました。(1月23日)

箕野先生は、本当はやさしかった

今日、5時間目に算数をやりました。今日も1円玉を使いました。今日は、1kgは1円玉で何まいかをやりました。実さいに、はかりを使ってやりました。50gずつやりました。はじめはちゃんとはかりにのるけど、全部はのらないから、1ℓますを使いました。まだけっかが出ていないのに、チャイムが鳴りました。先生は、「やめるでー」と言ったけど、みんなが反たいしたので、箕野先生は、「心のスケッチは、算数のこと書きい」と言わって、OKを出したので、つづきをやってくれました。けっかは、1000まいでした。楽しかったです。(1月23日)

こうして、1円玉3が千枚で1kgになること、だから、「1kg=1000g」であることを学習したのでした。

※この授業で行った「実験」では、厳密に1kgを量り取ったことにはなりません。子どもたちには、秤の針が50gずつ規則正しく増えていくので、この方法は視覚的には非常にわかりやすかったのですが、本当に実証するには、上皿天秤を使わないと正確なことは言えないはずです。ただ、この授業をした時には、まだ1kgの分銅が用意できていませんでした。

後に、1kgの分銅を手に入れて、次のように実験をしました。

子どもたちの目の前で、硬貨を数える機械を使って、1円玉が確かに1000枚あることを確かめます。

上皿天秤の左右の皿の両方に、1リットル升を載せます。このままではつり合わないので、クリップでつり合うように調整します。クリップを入れた1リットル升の方に1kgの分銅を入れます。

ここで問題を出しました。

「1円玉1000枚の重さは、1kgのはずです。ですから、これから1円玉を1000枚入れれば、ぴたっとつり合うはずです。でも、本当に1円玉1000枚の時に、ぴたっとつり合うのでしょうか。というのは、この1円玉は、誰かが使っていたものなので、すり減って軽くなっているかも知れないし、逆に手あかなどがついて重くなっているかもしれません。ですから、先生にも答えは分からないのです。やってみなければわからないのです。でも、予想を立てましょう。みんなはどうなると思いますか。」

3円だけ別にしておいて、もう一方の1リットル升に1円玉を入れていきます(1リットル升は、1円玉1000枚がちょうど入る大きさです)。997枚の1円玉を入れた状態で、上皿天秤は動き始めていて、998枚でほぼ2目盛分針が中央に近づき、更に999枚であと中央までに2目盛分が残った状態になりました。そして、1000枚でみごとにぴたっと中央で止まったのです。